ニュースの概要
東京23区で30平方メートル以下の単身者向け賃貸の平均募集家賃が、8月時点で月11万4339円になりました。前年の同じ月より約10%高く、過去最高です。この負担を和らげるため、日本企業が新入社員や若手社員向けに社員寮や社宅を増やしています。食堂などを備えた寮を、市場の家賃より大幅に安く貸す例が目立ちます。新規契約の7割超が単身者向けのワンルームで、単身世帯が増えていることも需要を押し上げています。かつて減らされた企業寮が、住居費高騰を受けて見直されている形です。
引用元: 東京の単身者向け賃貸高騰で企業寮が復活、若手社員の住居負担を軽減(The Herald Business)
分析・見解
家賃が10%上がると、手取りの感覚はどう変わるか
月11万4339円という数字は、年間にすると約137万円です。新卒の初任給が手取りで20万円前後だとすると、家賃だけで半分を超えます。食費や通信費、奨学金の返済を引くと、貯蓄に回せる額はほとんど残りません。
賃上げが進んでも、家賃の上昇が先に吸収してしまう。若手が実感する「給料が上がらない」感覚の正体は、ここにあります。
寮が消えた時代と、いま戻る時代の違い
1990年代以降、多くの企業は寮や社宅を手放しました。維持費がかさみ、個室志向が強まって、入寮を嫌う若者も増えたからです。
いまは事情が違います。寮は食堂や個室を備えた新しい形に変わっています。しかも市場の家賃が高すぎて、多少の相部屋感や門限があっても、割安さが勝つ場面が増えました。
つまり復活の背景には、寮が良くなったことと、民間の賃貸が悪くなったことの両方があります。
住宅手当より寮が効く、会社側の事情
同じ会社の負担でも、現金の住宅手当は課税され、手取りが減ります。会社が借り上げた住居を安く貸すほうが、本人の実質的な得は大きくなりやすいのです。会社にとっても、まとめて借りれば単価交渉ができます。
もう一つ見落とされがちなのが、人材をつなぎとめる力です。入寮者は同期との横のつながりができ、早期離職が減ると期待されます。住まいは福利厚生であると同時に、新人教育の場にもなります。
ただし弱点もあります。空室が出れば会社の持ち出しになり、築年数が進めば修繕費も重くのしかかります。
単身世帯の増加が、寮の需要を下支えする
新規契約の7割超がワンルームという事実は、住まいの需要が単身者に偏っていることを示します。晩婚化や非婚化で、単身で暮らす期間は長くなっています。
そうなると寮の対象は新入社員だけにとどまりません。20代後半から30代前半の社員まで、入居できる年数を延ばす企業も出てくるでしょう。若手向けの住まいが、中堅の住まいへと広がる可能性があります。
ビジネスへの影響
採用競争で、住まいが給与並みの武器になる
東京で人材を集めたい企業にとって、月3万円から5万円安い住まいは、年間で40万円以上の差になります。基本給を同じだけ上げるより、会社の負担は小さく済む場合があります。
求人票に「寮あり、家賃は相場の半額」と書けるかどうかで、応募数は変わります。特に地方出身の新卒には、上京時の初期費用の不安を消す効果が大きいでしょう。
導入前に確かめたい、費用と公平性の落とし穴
自社で建てるか、借り上げるか、他社と共同で使うか。選び方で必要な資金も、撤退のしやすさも大きく変わります。まずは借り上げ社宅で小さく始めるのが安全です。
もう一つ注意したいのが公平性です。寮に入れる社員と入れない社員で、実質的な待遇に差が出ます。地方拠点の社員や既婚者との釣り合いを、制度設計の段階で考えておく必要があります。入居期間に上限を設け、卒業時の引っ越し支援を用意すると、不満を抑えられます。
