このページはPR・広告を含みます
リスボンで数万人が住宅費高騰に抗議 家賃が賃金を追い越した社会で企業に問われること

NEW LIFE STARTUP GUIDE

リスボンで数万人が住宅費高騰に抗議 家賃が賃金を追い越した社会で企業に問われること

ポルトガルの首都リスボンで住宅費と生活費の高騰に抗議する数万人規模のデモが行われた。2017年以降に倍増した住宅価格と家賃の背景を読み解き、賃金との差が企業の採用や定着、働く場所の選び方に与える影響を考える。住宅手当や拠点戦略など実務への示唆もまとめる。

ニュースの概要

ポルトガルの首都リスボンの中心部で10月17日、住宅費と生活費の上昇に抗議する大規模なデモがあり、数万人が参加した。参加者の主張は、給料の伸びが家賃や物価の上がり方に追いついておらず、住まいを確保すること自体が難しくなっている、というものだ。ポルトガルでは2017年以降、住宅価格が2倍以上になり、新しく結ぶ賃貸契約の家賃もほぼ倍増したとされる。報道では、リスボン周辺で月716ユーロだった家賃が、契約の更新時に1,200ユーロを超えかねない例も紹介された。今回のデモは一部の層の不満ではなく、働いて暮らす幅広い人々が抱える不安が表に出たものと言える。

引用元: ポルトガルで数万人が住宅費・生活費高騰に抗議(Reuters)

分析・見解

家賃の上昇率が賃金の伸びを大きく上回った

報じられた716ユーロから1,200ユーロへの例は、約68%の上昇にあたる。給料が毎年数%ずつ上がっても、更新の一度でこれだけ跳ね上がれば、家計の計画は崩れてしまう。住宅価格が2017年から2倍以上、新規の家賃もほぼ倍という数字は、約9年で暮らしの土台が別物になったことを意味する。

今回のデモの本質は、物価高そのものより「住居費だけが桁違いの速さで上がった」点にある。食費や光熱費は工夫で抑えられるが、家賃は削りにくい固定費だ。しかも収入に占める割合が大きいので、わずかな値上がりでも貯蓄や結婚、出産の判断に直結する。

外からの需要が地元の購買力を超えてしまった

リスボンの住宅市場には、地元の所得とは関係のないお金が流れ込んだと指摘されてきた。観光客向けの短期貸し、海外の富裕層による投資、リモートで働く外国人の移住などである。地元の給料で払える額より高くても借り手や買い手が現れるため、価格の基準が住民の財布から切り離されてしまう。

似た現象はバルセロナやアムステルダム、日本の一部の観光地でも見られる。バルセロナは観光向け短期賃貸の規制を強める方針を示した。ポルトガルも投資目的の滞在許可制度を見直す動きを見せた。ただし、いったん上がった価格は制度を変えてもすぐには下がらない。

更新時の値上げが「静かな立ち退き」を生む

独自に注目したいのは、値上がりの影響が新しく借りる人だけにとどまらない点だ。すでに住んでいる人も、更新のたびに家賃の引き上げを求められる。法的には立ち退きではないが、払えなければ出ていくしかない。これは「静かな立ち退き」と呼べる現象である。

住まいが動けない理由になると、働き方にも影響が出る。職場の近くに住めない人が増えれば、通勤は長くなる。転職しようにも、引っ越し費用や新しい家賃の負担が壁になる。人材が動きにくくなると、賃金交渉の力も弱まり、地域経済の活力が落ちていく。

住宅を増やすだけでは解決まで時間がかかる

供給を増やすのは王道だが、土地の確保や許認可、建設には年単位の時間がかかる。新築は価格が高くなりやすく、低所得層の手には届きにくい。公的な賃貸住宅の割合が小さい国では、市場価格の変動を直接受けてしまう。

今後は、家賃の上げ幅の制限、空き家の活用、公的住宅の拡大、短期貸しの制限が組み合わせて議論されるだろう。ただし、規制が強すぎると貸し手が減り、かえって住宅が足りなくなる副作用もある。今回のデモの規模は、住宅問題が政治の最優先課題になる段階に入ったことを示している。

ビジネスへの影響

給与だけでなく住居費まで含めて報酬を考える

働く人にとって大事なのは、額面の給料ではなく、家賃を払った後に残るお金である。住宅費が急に上がる地域では、昇給が数%あっても実質的には生活が苦しくなる。採用で他社と競う企業ほど、この差に敏感になる必要がある。

具体的には、住宅手当の見直し、社宅や借り上げ住宅の整備、引っ越し費用の補助が有効だ。更新時の値上げに備えて、手当を地域の家賃水準に連動させる方法もある。従業員の住居費の負担感を年1回の調査で把握するだけでも、離職の兆しを早くつかめる。

拠点の置き方と在宅勤務の方針を見直す

家賃の高騰は、オフィス立地の判断にも関わる。都心に拠点を構えても、社員が近くに住めなければ通勤の負担から人が集まりにくくなる。通勤圏を広げる在宅勤務の併用や、郊外や地方都市への分散拠点は、人材確保の手段として現実味を増している。

一方で、海外の拠点を選ぶ企業は注意が必要だ。ポルトガルのように人件費が比較的低く魅力的に見える国でも、現地の住宅費が急上昇すれば、数年後に賃金の引き上げ圧力が強まる。進出前に、賃金の水準だけでなく家賃の推移と規制の動向も調べておきたい。

他人事にせず、自社の地域で備えを始める

日本でも、都心部の家賃上昇や更新時の値上げは広がりつつある。社員の生活が不安定になれば、仕事への集中力や定着率に影響する。住宅を福利厚生の中心課題と捉え、制度の見直しを計画的に進めることが、これからの人材戦略の土台になる。

関連記事